【セミナー開催レポート】 役員会のAI導入議論を変える60分

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20260604セミナー開催レポート サムネ
2026年6月4日、ブリングアウトは、書籍『生成AIで最強の組織が生まれる──トップと現場をつなぐ一次情報経営』(KADOKAWA、2026年4月刊)の刊行を記念し、オンラインセミナー「役員会のAI導入議論を変える60分」を開催しました。登壇したのは、同書の著者であり当社代表取締役CEOの中野慧です。 生成AIはすでに多くの企業へ行き渡っているのに、なぜその投資の大半は、PL(損益)にまで届かないのか。本稿では、当日の講演の内容をお伝えします。

本セミナーの要点

  • 生成AI投資の95%は成果(PLインパクト)ゼロ。 分かれ目は「業務プロセスへの組み込み」にあり、組み込んだ企業は成果を出す確率が大きく高まる(PwC調査で約5倍)。

  • 成果を出す企業は、経営トップが直接推進している割合が約7倍に達する(61%対8%)。 AIはIT部門任せでは経営に届かない。

  • 鍵は「一次情報経営」。 現場の生データを加工せず経営判断へ直結させ、利益の源泉となる「本丸」から着手する。

  • ホワイトカラーの仕事は「情報の中継」が価値を失い、「問いを立て、判断する」両端に価値が残る。

開催概要

  • セミナー名:役員会のAI導入議論を変える60分

  • 開催日時:2026年6月4日(木)10:00〜11:00

  • 形式:オンライン(Zoom ウェビナー)

  • 主催:ブリングアウト株式会社

  • 登壇者:中野 慧(ブリングアウト株式会社 代表取締役CEO)

  • 対象:経営層・経営企画・DX推進の責任者

中野慧は、ベイン・アンド・カンパニー、リクルート(スタディサプリ立ち上げ)、日本産業パートナーズ(DX顧問)を経て、2020年にブリングアウトを設立しました。同社はエンタープライズ企業のAIトランスフォーメーション(AX)を支援しています。中野の著書は、Amazonのマネジメント部門・新着ランキングで1位を獲得したほか、丸善 丸の内本店や紀伊國屋書店 グランフロント大阪店の経営書ランキングでも1位となりました。東芝取締役会議長・日本産業パートナーズ代表取締役の馬上英実氏ら、経営者5名が推薦しています。馬上氏からは、小手先のAI導入論ではなく「経営と現場の情報の断絶を解消する、日本型組織の構造改革の書」だとの評も寄せられています。


生成AI投資の95%が成果ゼロ。原因は技術ではなく、組織にある

生成AIパイロットの95%が成果に至らず失敗/登壇資料より
生成AIパイロットの95%が成果に至らず失敗/登壇資料より

図:生成AIパイロットの95%が成果に至らず失敗(登壇資料より)

生成AI投資の大半は、いまだ成果に結びついていません。MITが2025年に公表したレポート『The GenAI Divide: State of AI in Business 2025』によれば、企業の生成AIパイロットの95%は成果に至らず失敗しています。マッキンゼーの調査でも、AIを使う企業は88%に達する一方、明確な成果に結びついているのは6%にとどまります。出所の異なる二つの調査が、成功率5%前後という同じ結論に収束しています。

では、成果を出すには何が要るのか。それを正面から調べたのがPwCの調査です。期待を大きく上回る成果を出した企業は、AIを業務プロセスに正式に組み込んでいる割合が、期待未満の企業の約5倍にのぼりました。AIの価値は、ツールを配ることからではなく、企業の動き方そのものを書き換えることから生まれます。マッキンゼーの調査でも、成果を出す企業が「根本的なワークフロー再設計」に踏み込んでいる割合は、そうでない企業の2.8倍にのぼります。

問題は、技術ではなく組織にあります。生成AIの利用自体はすでに当たり前になりましたが、会社として活用方針を定めて推進している企業は2割ほどで、大半は部門任せ・個人任せです。現場で起きているのは、資料作成を速める、調べ物を効率化するといった個人レベルの工夫です。これでは業務時間がわずかに減るだけで、PLは動きません。

組織は「フラット化」を前提に考える時代へ

AIを本気で使う流れは、組織の形そのものにも及んでいます。アメリカで進行する「The Great Flattening(組織の大平坦化)」です。グローバルのテックジャイアントの経営者たちは、そろって同じ方向を指しています。メタのマーク・ザッカーバーグ氏は「管理者を管理する管理職は不要だ」と述べ、NVIDIAのジェンスン・フアン氏が60人もの部下を直接持ち、1on1なども設けないことは、よく知られた話です。全員が同じ情報を持って一緒に問題を解くためだといいます。アマゾンのアンディ・ジャシー氏は、中間管理職が悪意なく「何にでも自分の指紋を残したがる」と指摘します。ガートナーは、2026年末までに20%の組織がAIで中間管理職の半分以上を削減すると予測しています。

こうした流れを踏まえれば、成果を出すには、これまでの業務プロセスをAI駆動型へ作り変える本気の取り組みと、ピラミッド型の組織から中間管理職のレイヤーを大きく動かす抜本的なチャレンジが求められます。これまでの業務プロセスも、組織体制も、もはや所与ではありません。

一次情報経営とは、経営が「生データ」に直接触れること

二次情報依存と、AIによる一次情報への変換/登壇資料より
二次情報依存と、AIによる一次情報への変換/登壇資料より

図:二次情報依存と、AIによる一次情報への変換(登壇資料より)

成果が出ない根本には、組織がたどってきた歴史があります。企業の組織は、よりよいものを多くの人へ効率よく届けるために、大勢が集まる枠組みとして生まれました。一対一の取引なら、お客様の声をすぐ商品へ反映できます。ところが組織が大きくなるにつれ、現場の声は課長から部長へ、部長から経営会議の資料へと運ばれ、いつしか「伝言ゲーム」になっていきます。その過程で要約と省略が重なり、生の情報とニュアンスは失われていきます。最も価値の高い現場の一次情報が、最も加工された形でしか経営に届かない。この「二次情報依存」こそ、日本型組織が長く抱えてきた構造的な弱点です。

生成AIの本質的な価値は、無数のユースケースを並べることではなく、まさにこの矛盾を解ける点にあります。現場の会話を自動で録音・文字化し、自社の文脈(コンテクスト)に沿ってAIに構造化させれば、加工されない一次情報を、そのまま意思決定者へ届けられます。いま工場で起きている経営リスクをはらむ品質問題は何か、次の新規事業の種になる顧客ニーズは何か、受注を仕掛けている大手の本当の状況はどうか。こうした問いに経営が直接アクセスし、自ら手を打てるようになる。これが「一次情報経営」です。

こうした活用は、先進的な企業を中心に、機能をまたいで生まれ始めています。代表的なものを、機能別に挙げます。

  • 新サービス企画(保険など):既存サービスの加入理由・非加入理由が、項目別の比率と具体的な声として、毎週リアルタイムで上がってきます。従来このテーマは、半年に一度、外部のオンライン調査に委託して傾向を探る領域でした

  • 営業:受注確率や次のアクションを担当者の主観で入力するために形骸化しがちなSFA(営業支援システム)を、商談の記録からAIが客観的に判定する形へ変えます。クロージングまでのどの段階にいるかを見極め、「推進役になりそうな相手がまだ前向きな反応を見せていないので、接触を増やすべき」といった次の一手まで示します。SFAそのものを不要にした企業もあります。さらに、商談のたびにAIが良かった点・改善点を自動でフィードバックして担当者のPDCAを支え、蓄積した商談データから競合と自社が何を評価されているか(たとえば競合は納品の速さ、自社は突発対応やサポート品質)を抽出し、商品企画へ還元する使い方も広がっています

  • 開発:既存機能への不満を「解約につながる声か、ある程度コントロールできる声か」とAIが採点し、声の大きさに左右されがちだった開発の優先順位を、顧客の状況で決めます

  • 調達:交渉の巧拙を自社固有の基準でスコア化し、ハイパフォーマーの型に揃えて粗利率を高めます

  • 製造:品質対策会議の議論から、経営リスクや生産管理上の論点を、見たい人の視点ごとに自動で吸い上げ、別の工場へ波及する前に手を打ちます。蓄積した対策はナレッジとしても溜まり、組織の財産になっていきます

  • 人事・組織:定例会議でOKR(目標)の進捗を点数化し、全部門横断で「今週どこが経営リスクなのか」を把握します。立てっぱなしになりがちな目標が、自社固有の経営情報として、新聞を読むように一覧できるようになります

  • バックオフィス:AIが経理などの管理部門の担当者と直接対話して業務フローを一次情報として引き出し、最適化案とその実装(スキル)まで提案します

機能をまたいで広がる一次情報経営のユースケース/登壇資料より
機能をまたいで広がる一次情報経営のユースケース/登壇資料より

図:機能をまたいで広がる一次情報経営のユースケース(登壇資料より)

さらに踏み込んだ企業では、ClaudeをNotion・Slack・SharePoint・GitHubなどとつなぎ、現場の会話で得た一次情報を起点に、商談後の資料作成、フォロータスクの生成、開発要望のチケット化までを自動でつなげています。現場の一言から、次のプロセスが切れ目なく動き出す。ここまで踏み込んだ運用も、すでに現れ始めています。

ただし、すべてを一度に変える必要はありません。多くの企業は、自社の利益を生む源泉となるプロセス、すなわち「本丸」を見極めてから着手しています。人材業なら営業、小売なら調達といった、差別化の鍵となるプロセスに絞り込むほど、効果は出やすくなります。

成否を分けるのは、経営トップが自ら推進するかどうか

本丸が定まれば、進め方そのものは複雑ではありません。まず現場の生データを取得し、要点を整理します。そのうえで、自社の営業ならどの軸で売るのが大事か、調達ならどの軸で仕入れるのが大事か、経営に情報を届けるなら何を知りたいか。その会社で大事にされているコンテクスト(文脈)をAIに渡します。出てきたアウトプットを見やすいダッシュボードに整え、そのデータで日々PDCAを回しながら、ビジネスモデルそのものの再検討にまで踏み込む。この一連の流れが、抜本的な効果につながります。

経営トップが直接推進しているか(61%対8%)/登壇資料より
経営トップが直接推進しているか(61%対8%)/登壇資料より

図:経営トップが直接推進しているか(61%対8%)(登壇資料より)

進め方が描けても、誰が推進するかで結果は大きく変わります。同じPwCの調査で、経営トップがAI導入を直接推進しているかを問うと、「期待を大きく上回った」企業の61%が経営トップ主導だったのに対し、「期待未満」の企業では8%。その差は7倍以上です。期待未満の群では、約7割が「IT部門が推進」と回答しています。経営がAIをIT部門に任せきりにし、その部門も事業を動かす力を持たないケースが多く、成果に届かない。これが典型的な失敗の構図です。

トップが本丸に踏み込むときは、その「解き方」も変わります。従来は「何を解くか」を経営企画やコンサルが詰め、「どう解くか」をIT部門や業務コンサルが担う、という分断したプロセスが一般的でした。いまはAIで試作(モック)を安く速くつくれるため、両者は融合します。「何を、どう解くか」までを一気に提案し、動かしてPDCAを回し、また問いに立ち返る。実際、明確な成果を出している企業は、戦略と実装を横断するチームへ組織を再編する傾向が顕著です。

その担い手を、すべて自前でそろえる必要はありません。MITのレポートでは、外部の知見を活用した企業の成功率は、内製のおよそ2倍にのぼります。背景には構造的な事情があります。AI人材の需給は世界的に約3.2対1で、新規採用は容易ではありません。モデルは毎週のように更新され、最新知識の有無だけで成果は大きく変わります。内製で本格的に取り組むと、外部活用に比べコストは10〜100倍、時間は2〜3倍かかるとされます。2025年5月には、OpenAI・Anthropicがそれぞれ投資ファンドと組み(OpenAIは19社連合で40億ドルの新会社を組成)、経営を動かせる座組みで成果を取りにいく動きも始まっています。外部の知見を組み込む座組みも、有力な選択肢です。

成功する組織に共通する、四つの作法

数多くの支援を通じて、成果を出す組織には共通する作法が見えてきたといいます。

  • 本丸から着手する:利益の源泉となるプロセスに、優秀な人材を集中投下する

  • クイックウィンを生む:「売れなかった若手の売上が伸びた」といった分かりやすい成果を早期につくり、組織の機運を高める

  • 未来のストーリーを語る:データが溜まった先に何が変わるかを、リーダー自身の言葉で繰り返し語る

  • 業務に組み込み、物理を変える:お願いベースをやめ、ルール化・自動化でプロセスそのものに織り込む

逆に失敗する組織は、まず慣れることを優先し、各自が自分の業務からAIを使い始めます。けれども「楽になった」と報告される業務が、そもそも無くてよいものだったり、空いた時間でまた別の報告書が生まれたりと、組織を変える取り組みにはなっていないことが少なくありません。理由を語らないまま義務化して反発を招いたり、リーダーが前面に出ず現場任せにした結果、当初の熱が現状維持バイアスに飲み込まれて使われなくなったりと、定着しないパターンも目立ちます。

四つを一気通貫で実践した企業もあります。あるマッチング事業の会社は、生命線である営業を本丸と定めました。まず、入力が定着しなかったSFA(営業支援システム)のひな形をAIで高精度に自動生成し、「入力しろと言われてもやらなかったものが、ちゃんとした形になる」という成果でクイックウィンをつくります。蓄積した商談データは、売り手と買い手のマッチング精度を高め、労働集約で価格競争に陥りがちだったビジネスモデルそのものを変えていきました。社長は戦略会議や株主とのコミュニケーションでこの変革を繰り返し語り、成功した社員を表彰します。さらに、データが溜まっていない案件は「まだ誰の顧客でもないフリー客」として誰でも営業してよいとルール化し、お願いベースではなく仕組みとして全社に浸透させました。ここまで踏み込んで、はじめてPLインパクトが現れます。

なお、新しい取り組みに摩擦はつきものです。それを前提に割り切り、リーダーが途中で「任意でいい」とはしごを外さないこと。これもまた、定着の分かれ目になります。

AI時代にホワイトカラーに残る仕事は、「中継」ではなく「両端」

AIは、働く一人ひとりの役割も変えます。「仕事を奪われるのではないか」という不安はよく聞かれます。しかし歴史を振り返れば、人間は農業革命でも産業革命でも苦役を機械に外部化し、生まれた余剰時間を新しい仕事に投資してきました。今回外部化されたのは「脳のメモリ」、つまり情報を覚え、処理する作業です。問われるのは、空いた時間で何を生み出すかです。

顧客接点に立つプレイヤーには、むしろ追い風です。ネット上に存在しない「顧客の本当の声」はAIには取得できず、それを持ち帰れることこそが競争優位の源泉になります。その声が加工されずに経営へ届けば、現場はビジネスのR&Dセンターへと変わります。

岐路に立つのは中間管理職です。現場から情報を集め、報告資料に整えてプレゼンするだけの役割は、AIに置き換えられます。一方、現場の情報を自ら分析し、意思決定まで提言できれば、役割はむしろ広がります。「自分のチームを経営している」と捉えられるかどうか。価値が残るのは、問いを立てる入口と、判断を下す出口。その両端です。

質疑応答

講演後には質疑応答の時間が設けられ、推進の実務に関する質問が寄せられました。主なやり取りを紹介します(参加者の発言は匿名・要旨)。

Q. 明日から、まず何に着手すべきか。

A. すぐ着手できる業務は、たいてい、無くしてもよい業務になりがちです。順序が大切です。まず自社の「本丸」を整理し、そのうえで何に着手すべきかを考えることをお勧めします。

Q. IT・DX部門からのボトムアップで進めるのは現実的か。

A. 論点の整理はIT部門が担ってかまいません。ただし、何をどう進めるかは、一度経営の判断に上げるべきです。

Q. 経営企画から「本丸」へ切り込む際、事業部門をどう巻き込むか。

A. 経営企画はコストセンターと位置づけられ、現場に気を使うあまり、検証に必要な事業部門のリソースを使いづらく、AIの精度が上がらないことが少なくありません。だからこそ、本セミナーの講演資料のデータを提案資料に織り込み、経営トップを通して下ろす形が有効です。

Q. 組織のフラット化やAI活用にハードルを感じる企業は、どこから手をつけるべきか。

A. 自社の利益を生む源泉、すなわち「本丸」に絞ることです。業種によって差別化を支えるプロセスは異なりますが、そこにフォーカスするほど効果は出やすくなります。広くバックオフィスを効率化しても、日本では人員削減に直結しにくく、効果は限られます。

なお、時間内に取り上げきれなかった質問には、後日個別に回答するとのことでした。

まとめ

生成AIの導入は、もはや前提です。差がつくのは、その先にあります。投資の95%が成果に届かない理由は技術ではなく、現場の一次情報が加工された形でしか経営に届かない、組織構造そのものにあります。経営が一次情報に直接触れ、本丸から着手し、トップ自らが推進する。これらを経営の中核に据えるのが「一次情報経営」です。

自社のどのプロセスを本丸と定め、その現場の声を、どうすれば生のまま経営の意思決定に活かせるか。問い直すことから、変革は始まります。


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